En hommage à SPI

SPIへのオマージュ

S&T#322「Banana Wars」

今月号の付録ゲームは、1897~1945年の中南米の米国利権を扱う「Banana Wars」。
S&Tでは初のカードドリブンゲームで、戦争でなく、経済・政治に焦点を当てたゲームになっている。


【ゲーム】
登場する国は、キューバ、ハイチ、メキシコ、パナマ、コロンビア、ホンジュラス、ガテマラ、コスタリカニカラグアドミニカ共和国アメリカの11カ国。
ゲームターン記録トラックはなく、44枚のカードでターンが進行する。

アメリカ側プレイヤーは、投下した資本と貿易の保護ために軍事介入を行い、中南米に政治的安定をもたらそうとする。それに対する革命派プレイヤーは、扇動者を増やして反乱をおこし、社会危機を招いて、貿易品目の暴落を試みる。
ターン終了までに、二カ国以上が社会危機に陥るか、二品目の市場価値が暴落していると革命派の勝ち。

セオドア・ルーズべルト大統領の外交『大きな棍棒を携え穏やかに話す(speak softly and carry a big stick)』をそのままルール化したようなゲーム。アメリカは、派兵はするが正規戦はしない。軍事力をバックに他国に干渉する。

モンロー主義帝国主義の間で揺れ動く米国の政策変化を44枚のカードで表している点が特色と言える。


【背景】
1898年、米西戦争に勝利したアメリカはフィリピン・プエルトリコ・グアムを領有、中国・中南米・太平洋への手がかりを得た。
おりしも、世界は帝国主義による分割の最終段階に入っていた。1901年、セオドア・ルーズヴェルト大統領は、カリブ海域の「慢性的な不正と無能」に対しては武力干渉が正当であると表明、軍事介入による地域の安定化に乗り出す。これを低強度紛争のはじまりと言う人もいる。

ゲームでは、より大きな軍事力の行使が、より大きな安定を地域にもたらす仕組みになっているが、現実には派兵がより大きな政情不安を招いたのではないだろうか?

史実では、ルーズベルト大統領(1901-)が積極的に軍事介入を開始(棍棒外交 = Big-Stick Policy)、クーリッジ大統領(1923-)から「善隣外交(Good Neighbor Policy)」に転換、フランクリン・ルーズベルト大統領(1933-)では、プエルトルコ・グァンタナモベイ・パナマ運河以外から撤兵した。第二次大戦中のカリブ海は連合軍の軍港として機能しているから、アメリカの軍事介入はおおむね成功したのだろう。

現在は陰謀と経済破綻、政治スキャンダル、麻薬戦争の宝庫になっているラテンアメリカ。「Banana Wars」は、この中南米情勢の第一歩を描いたゲームと言える。

テーマとしては興味をそそるが、ルールの完成度はどうなのだろう?