En hommage à SPI

SPIへのオマージュ

これは、セントラルフロント・シリーズではない。

(SPI) NATO Division Commander
19歳の時に購入した「(SPI) NATO Division Commander」。
当時、高価だったウォーゲームは"一生モノ"という感覚で、相当吟味して買った覚えがある。実際のところ、大学時代に購入したのはこのゲームだけだった。

箱を開けてみてわかったことは、「NATO Division Commander」は、1ターン = 8時間、1ヘクス= 1.6km、1ユニット = 1大隊のモンスターゲームだということだった。

結局、対戦相手がみつからず、一度もプレイしたことがないのだが、"一生モノ"だけに捨てずに保管してきた。買ってから数十年が経つ今でも、ルールに新しい発見がある(というか、ルールが未だによくわからない)。

当時は、ウォーゲームのルールを理解することが、社会人になった時の仕事や企画・運営に役立つと思っていた(もちろん戦争ゲームが好きだったことが、購入の第一の理由なのだが)。だから、結構真剣にルールブックを読んでいたのだ。

それから数十年を経た現在では、昔読んだルールを読み返すことが、社会人として過ごした歳月を評価することに役に立つ。あのホビージャパンの日本語訳ルールを、暗記するレベルになっていたことに驚く。
下手な文学より繰り返し読んだのではないか?

意外なことに、「(SPI) NATO Division Commander」は、"来るべき第三次欧州大戦のヘッセン州における決定的な戦争をシミュレート"したゲームではない。
日本語版ルールにも「いたずらに戦端を開かず(中略)、ゲーム内での過敏反応は避けるようにしていただきたい。」と、まるで戦闘を回避すべきであるかのように書かれている。

いずれのシナリオも9ターン = 3日間 の長さで、大局的な勝負を決めるには不十分な時間である。敵ユニットを包囲殲滅するとか、前線に穴を開けて敵FBA後方になだれ込む、などということを求めるならば100%あてが外れるであろう。

これは、セントラルフロント・シリーズではない。与えられている時間は三日間。「(SPI) NATO Division Commander」では、作戦の準備をしているうちにゲームが終わってしまうのだ。

ではいったい、何のゲームなのか?
これから解明してゆきたいと思う。


(GMT) Gandhi
非正規戦で政府が戦う相手は、正体の見えない地下組織であり、宣戦布告も講和条約も成立しない。敵はユニフォームを着ない兵士であり、民間人と兵士との明確な区別はなく、戦争状態は常時継続し、軍事インフラストラクチャーを持たない反政府主義者は、陰謀、テロリズム、心理、海外世論、政治、暴力を駆使して、政府と対決する。

COINシリーズの魅力は、規範的でない非正規戦を規範化 (= ルール化) したことにあると思う。
COINシリーズは、政治力と軍事力という、本来次元の違う要素を共通のルールで競合させている。その意味で、軍事力と非暴力とが対決する「(GMT) Gandhi」は、究極のCOINゲームになるのかもしれない。

インド議会プレイヤーとイスラム連合プレイヤーは、「不服従」と「非協力」アクションで、どうやってRaj政府軍の軍事力に勝つのか?
19世紀までの一般的なセオリーは、政治が力を持つためには、何よりも軍事力が背景に必要であり、軍事力において劣る平和的な抗議活動は政府軍によって壊滅させられる、というものだったと思う。ガンジーの勝利は(第一次大戦と第二次大戦によるイギリス経済の疲弊があったとはいえ)、世界の常識を塗りかえたものであるに違いない。

ガンジーの宗教的ともいえる"非暴力"ステートメントは、どのようにルール化されているのか?争わないで勝った戦いを、どうやって対戦ゲームにしたのか?
ガンジーをルール化できるなら、キリストとローマ帝国の戦いもCOIN化して欲しい。
ルールを読めば読むほど興味が尽きない。

【写真1】 NATO Division Commanderのルールを読み返す。無駄だと思っていた受験勉強のスキルが役に立つ。