En hommage à SPI

SPIへのオマージュ

8月23日YSGA例会

三人集まり「S&T#70 The Crusades Western Invasions of the Holy Land (1978) 」を対戦しました。

事前プロットによる同時移動、7人対戦という半端な人数のマルチゲーム、煩雑なブックキーピング、電卓必須のCRT、無制限スタックから生ずる超ハイスタック(崩れて隣のスタックと混じりあう)、雑誌ゲームにしたためのコンポーネント不足(すべてメモしろという)という、失敗作としか思えないゲームスペックでありながら、実際に対戦してみると、"Battle for Stalingrad"、"Tito"などと並ぶSPIの傑作であることがわかります。

リチャード・バーグによるルールは、今日から見ても独創的です。1970年代、ウォーゲームの発展期の中で生まれたゲームという感じです。

"The Crusades"の魅力は、華やかな十字軍の裏の事情を、プラグマティックにルール化したことにあると思います。

十字軍側には、もちろんエルサレム征服という神聖かつ明確な目標があるわけですが、実態は生存のための食料戦・経済戦であり、騎士達の「どうしてこんなところまで来たのか?」というぼやきが聞こえるような展開になります。エルサレムに行くのをあきらめて独立国を作って勝つこともでき、これも史実的に正しいのです。

300戦力で登場する十字軍は、仲間割れしないなら、第5ターンまでは無敵ですが、冬季が近づくと、戦争そっちのけで巣篭もりを始めることになります(たぶんイスラム側も)。安全に冬を越せる都市のキャパシティは25戦力しかなく、「キャパを超える戦力は都市の外に出なければならない」というルールがあります。ルールにはそれが書かれるべき理由があるわけですが、このゲームの面白さは、冬が来て、ルールに秘められたデザイナーの意図を知り、あわてることにあります。

イスラム側は、十字軍が束になってかかってくるか、分裂して勝手な独立国を作る陣営が出るかで戦略は違ってくると思いますが、いずれにせよ、十字軍をどこに誘導するかを冬季前に計画すべきだと思います。

十字軍は、都市から得た収入(=生存に必要な財産ポイント)を、船か部隊を使って前線まで輸送しなければなりません。これには最低でも3ターンかかりますが、そんなことをしているうちに雨季が来て川を渡れなくなり、冬季になります。さらに、輸送の過程でも、損耗表によってユニットは少しずつ戦力を失い、場合によっては途上で完全消滅します。"(SPI)CAMPAIGN FOR NORTH AFRICA"の原型と言えるゲームですね。

今回は三人で対戦しましたが、全20ターンのうち第8ターンまでプレイすることができ、十分楽しめるものでした。

統一したリーダーシップを持たずに遠征に出た十字軍と、彼らが遭遇した苛酷な自然環境。他に類を見ない戦争の特色をうまく表したゲームだと思います。

2006年、リチャードバーグはこのゲームをベースに、"(GMT) Onward, Christian Soldiers: The Crusades"を出版しています。

【ルール覚書】
"Vision"は司祭が観たとされる"幻視"をルール化したものである。
強行軍ルールの代わりにMovement Attritionがある(従って移動力すべてを使い切ることを前提としていないと思う)。
SiegeされているCity hexのユニットは、周囲6ヘクスにZOIを持つことはできない。
Siegeを行っている側は冬季でも損耗を完全に免れる、というルールがある。食糧難の時に、断食して裸足で城壁のまわりを7周してエルサレムを陥落した史実をルール化しているのだろうか?
冬季、平地で停止しているユニットのMovement Attritionを減少させるために、無意味な移動をしてよいかどうか、事前のとりきめが必要。
動かないユニットのMovement Attritionの計算を忘れやすい。
"Occupy"と"Control"は別。"Occupy"していないと税収が得られない。
戦闘結果によってコマンダーのGuile Ratingが変わることを忘れていた。[21.4]
[6.4]Clarificationの"If the forces used different routes, use the highest hex attrition value."の意味は、複数のスタック(単一のプレイヤー、もしくは複数のプレイヤーによる複数スタック)が移動し、その始点と終点が同じヘクスであり、なおかつ一部のスタックが他のスタックとは異なるルートをとる場合、Attrition pointを計算する上で、それらは単一のスタック移動とみなし、なおかつすべてのスタックが最大コストのルートを取ったとみなす、という意味。このようにして生じたAttrition pointsは、プレイヤー間で均等に分け、各自のASPの量とプロポーショナルでなければならない。
bezantsの用途
すべてのプレイヤー: Bribes、捕虜の売買、その他の交渉ごと
Crusaders,Byzantine: Movement AttritionとSiage AttristionによるASPロスの補填(しかし、Attritionが発生していないのにASPの増強をするためには使えない。)
Fatimid: 自国以外の港の使用料