En hommage à SPI

SPIへのオマージュ

ウクライナ情勢

2008年、ロシアはアブハジア南オセチアとの紛争に介入し、西側がまばたきをしている間に、2つの自治地域を独立国家として承認した。2014年、ロシアはクリミアで電光石火の作戦後に住民投票を行い、その結果、クリミアは"クリミア共和国"としてロシア連邦編入された。同じ年、ドンバスでウクライナ軍が敗退し、政治的帰結としてルガンスク人民共和国(LPR)とドネツク民共和国(DPR)が形成された。2015年、プーチン大統領は「ロシアがアサド政権を支援しなければ"テロ組織"がシリアを支配する危険がある」との理由でコンパクトながら効果的な空爆を行い、アサド政権を救った。

これらの出来事はすべて、ロシアが突然かつ集中的に武力を行使し、同時に具体的な政治的変化を求める用意があることを示している。

今回(2022年2月24日)の侵攻の目的は、ミンスク合意を反故化し、西側諸国によるウクライナ領土の"軍事利用"を阻止、同国の国家構造をロシアに都合のいいものに変えることだと何人もの軍事評論家は語る。モスクワは、ウクライナに西側諸国の軍事インフラが出現するのは時間の問題だと考えているのだという。

ロシアの軍事目標
少なからぬメディアが、プーチン大統領ヒトラーになぞらえ、狂気の独裁者として演出するが、プーチンの目的は次のように推測できる。
1. ロシア軍はドニエプル川東で停止。「市民が求めた新国家」の首都にする都合上、キエフでの戦闘は避け、迂回した後に包囲して占領する。
2. キエフ占領と同時にそこを首都とする新国家を新設、ロシアはこれをただちに承認する。
3. その結果、ドニエプル川を挟んでウクライナに2つの国家が現れ、東側はロシアと友好国になる。極右民族主義者は、西側に移住させる。
5. ウクライナを分割することで、NATOとの間に緩衝地帯が生まれ、ロシア南西部に対する直接的な軍事脅威は取り除かれる。
6. クリミア共和国への陸上回廊は確保され、ロシアはアゾフ海の支配を得る。

作戦
ロシア軍には、兵站的休止なしに一挙に攻略するだけの兵站力はない。その結果、大規模な敵地の奪取は非現実的である。開戦当初は初期の目標に到達できるかもしれないが、兵站的停止を余儀なくされるだろう。

NATO軍は、戦力差に対処するのではなく、ロシア軍のロジスティック上の問題を利用することに焦点を当てた作戦を実施するだろう。
そのためには、ロシア軍をNATO領域深くまで引き込み、鉄道橋、パイプラインなどの輸送インフラを標的にしながら、ロシアの補給線を最大限に引き延ばす。ロシア軍の兵站部隊は、鉄道から遠く離れた場所で大規模な作戦を行うようには設計されていない。

「(SPI) NATO Division Commander」でも、ソ連軍の先鋒部隊は無補給で昼夜の区別なく前進し、消耗するにまかせている。ソ連軍の先鋒が疲弊したところを叩くのが西側の戦術なのだろう。

経済
今のところ、この戦争に公然と軍事介入した外国はない。しかし今月から行われた西側の経済制裁は、ロシア経済のみならず、制裁した側の経済を失速させる原因にもなる。日本にも甚大な悪影響を及ぼすだろう。

EUはガスと石油の3割をロシアから輸入しており、ロシアがこれらの供給を絶つならば、エネルギー価格が上昇、EUの経済成長率は下降する。既に天然ガスパラジウム、小麦などの価格は急騰している。
一方、3月2日に西側が行った経済制裁(SWIFT等からの排除)は、ロシア国債にデフォルトが起きる可能性を生み、最初の支払期限は3月16日であるという(1998年にもロシアはデフォルトを起こしているが、これは制裁の結果でなく、ロシア内政上の問題だった)。

3月4日はルーブルが暴落して1ルーブル = 1円を切った。中国が経済制裁に抜け穴を作らない限り、ロシア経済はハイパーインフレに陥る可能性があるという(JPモルガン)。
しかし、西側諸国の経済制裁に対し、ロシアは2014年のクリミア紛争から準備していたという報道もある(BBC)。

「(SPI) World War 3」は艦隊と核ミサイルの戦いだが、今日の世界戦ゲームでは「対外債務インデックス」「国債保証料率」のルール化が必要だろう。

まとめ
3月7日時点でキエフは占領されず、ウクライナとロシアの和平交渉もすぐに決裂した。8年間続く民族対立は、分かりやすい合意に至ることはないだろう。
ロシアは外交的に孤立した。モスクワの行動を支持する国は中国を除いてないだろう。「内戦」で処理できたクリミアやドンバスと違って、今回は大規模かつ公然の軍事衝突、つまり本格的な戦争の話である。
西側からの大規模な軍事援助は紛争を長引かせることになる。米国とEUは、モスクワと公然の軍事対決をすることはないだろう。
仮にロシアがウクライナの東半分を支配したとしても、戦争は長く低迷した対立に発展する可能性がある。
ロシアが債務不履行に陥り、EUの経済成長率がマイナスに転じるなら、その影響は日本にも及び、世界的な金融恐慌になるかもれない。モスクワの地下鉄の混乱はグローバリズムの陥穽をあきらかにした。
確かなことは、ウクライナ紛争によってアメリカの軍産金融複合体がボロ儲けをすることである。

https://crimea.suspilne.media/en/news/6416
The Washington Post and Bild have published maps of Russia’s possible attack on Ukraine

https://warontherocks.com/2021/11/feeding-the-bear-a-closer-look-at-russian-army-logistics/
Feeding the Bear: A Closer Look at Russian Army Logistics and the Fait Accompli

https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-60502502
西側諸国の経済制裁、ロシアは以前から準備 BBC

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-03-04/R87W6KDWRGG201
ロシアは1998年のような経済「崩壊」に向かっている-JPモルガン

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFM03EYM0T00C22A3000000/
ウクライナ侵攻 「Think!」エキスパートが読み解く 日経新聞

【写真1】
今回の戦争で一番の驚き。2021年12月にワシントンポストとドイツのタブロイド誌"Bild"が掲載したロシアの侵攻図。本文には「ウクライナNATOプーチンの要求を呑まない場合、2022年1月下旬から2月上旬にロシアは侵攻する」と書かれている。
「Phase 1」から「Phase 3」までの三段階の中で、キエフは「Phase 3」で迂回して包囲する計画。ドニエプル川より東をコントロールすることが目的。

【写真2】
高騰するエネルギー価格と下落するルーブル (2022年1月9日~2月27日の推移。日経新聞)

【写真3】
ロシアの地下鉄改札に並ぶ大勢の人々といわれる写真。Apple PayとGoogle Payが使えなくなったための混乱らしいが、他国にインフラを頼るとはこういう事なのだろう。