En hommage à SPI

SPIへのオマージュ

映画評「独裁者たちのとき」

「太陽(昭和天皇)」「牡牛座(レーニン)」「モレク神(ヒトラー)」のアレクサンドル・ソクーロフ監督作品、と言えば見ないわけにはいかないだろう。

棺に横たわったスターリンが、「自分は死なないし、これから先も死なない」と声を荒げるところから映画はスタートする。この映画は、記録フィルムをAIでデジタル加工したもので、冥界に集まったヒトラースターリンチャーチルムッソリーニの四者の会話で進行する。

彼らは、お互いを嘲笑、揶揄し、己の陶酔にひたる。ヒトラーは、ホロコーストについて語ることはないが、パリを焼き払うことを怠ったことへの後悔を口にする。ムッソリーニは「ルビコン川を渡ればすべてが戻ってくる」と言い、愛人クラーラの死体に語りかける。

多くのセリフが明らかに悪趣味であるとしても、その不遜さは、厳かな人物の動作とモノクロームの美しさによってバランスが取れている。
イタリア語、フランス語、ドイツ語、ロシア語、英語、ジョージア語で語られるこの映画は、ほとんどの観客にとって字幕ぬきでは理解できない作品だろう。映画館よりはギャラリーで、観客が自分のペースを決められるような場所での上映にふさわしいかもしれない。

チャーチルは独裁者ではないので、日本語タイトルはこの作品にふさわしくない。

原題「フェアリーテイル
監督 アレクサンドル・ソクーロフ
2022年/ベルギー・ロシア
上映時間 78分/4月22日から渋谷ユーロスペースで上映